北海道にある陸上自衛隊が所有する然別演習場で実弾が発射される事故があり、世間は騒然としています。
日本は銃社会ではない上に、よっぽど普段見ることのない殺傷能力の高い武器が自分の住んでいる地域で打たれまくっているなんて話を聞いたら気が気ではないはず。
今回、実弾が発射された原因は見間違いによるものだと思うのですが、そもそも見間違いが起こるほど細かな違いで実弾と訓練用の弾(空包)の見た目が異なっているわけではありません。
ではなぜ、今回このような事が起こってしまったのでしょうか?原因を探ってみます。
そもそも空包と実弾の性能や見た目の違いは?
本来演習では訓練用の銃弾として空包と呼ばれるものを使用するのですが、今回誤って実弾が使用されてしまうという痛恨のミスを犯してしまった北海道の自衛隊。
でも、空包と実弾の違いは見た目で簡単に区別のつくものです。
簡単に説明すると、銃弾は火薬を包む薬莢、火薬のエネルギーを受けて銃口から一直線に飛ばす能力をもつ弾頭(銃弾ですね)から構成されています。
つまり、空包には音を鳴らす機能しか備わっておらず、火薬の量も実弾と比較して少なめとなっています。
また、なぜ自衛隊では実弾が保有されているかというと、毎年射撃検定と呼ばれる射撃の腕を競う訓練があるためですね。
この射撃検定が隊員の射撃の優劣を決め、ボーナスの査定にも響くことは有名な話なのですが、まず訓練などで使用されることはありません。
訓練では空包は音により射撃したことを表現するために使用されています。
なので、実弾には使用されている弾頭が無いんですね。
わかりやすい画像があったので、こちらを参考にすると一目瞭然でしょう。
参考元: news.tbs.co.jp
こんな感じになっています。
また、空包と実弾は基本的に扱い方が全く同じであり、弾薬をもらうときには専用のテントを設置し、復命復唱(相手が言ったことをそのまま繰り返す)をして弾数や外観の形状をチェックしたうえで弾薬を入れる弾倉(マガジン)に弾をセットしていきます。
しかし、今回はなぜか実弾を入れていることに全く気づかない隊員ばかりだったということですね。
周りが暗くても実弾は先端が尖っているためすぐに判断がつくと思いますし、まだ入隊したての新隊員でも理解できることです。
でも、なんで間違えたのか本当に気になりますね。
射程距離と殺傷能力の度合い
今回の事故では実弾は1発2発の誤射ではなく、実に79発もの発砲がなされたということです。
今回、幸いにもその間に人がいることはありませんでしたが万が一誰か居たら・・・想像したくありませんよね。
訓練に使用した89式小銃と呼ばれる銃は自衛隊では一般的な小銃で、海外ではアサルトライフルと呼ばれているものになります。
射程距離はちょっとお話することはできないのですが、斜め45度に向けて発射すればとなり町のどこかの民家めがけて飛んでいきます。
射撃検定では数百メートル先の的を狙うため、目視できる範囲であれば十分な推進力や殺傷能力をもっているといえるでしょう。
また、空包を発射するときには「銃口ホルダー」と呼ばれるものを装着することも義務付けられており、今回も使用されていました。
参考元: auctions.search.yahoo.co.jp
この赤丸で囲った、オレンジの部品ですね。
この銃口ホルダーによって空包が装填されていることを意味し、また万が一実弾が発砲されていても弾が飛び出すのを防ぐことができ、被害を最小限に抑えることが可能になっています。
しかし空包であっても全く危険ではない、というわけではありません。
鼓膜が破れるぐらい大きな発砲音も出ますし、発砲した時に銃口から出てくる爆発ガスは週刊少年ジャンプぐらいなら簡単に貫通穴を開けることができてしまいます。
空包であれば1メートルぐらい離れればギリギリ安全ですし、今回は100メートル以上はなれたところから撃ち合いをしていたため全く問題はありません。
でも、今回は実弾が込められていたため100メートル離れていても人に当たればまず命の保証はありません。防弾チョッキも貫通します。
今回の件でも銃口ホルダーを使用していたため誤って実弾を誤射するもこの部品の破片でケガをしただけですみましたが、もしも人に向けて空包だと思って撃っていたとなると…想像したくありませんね。
なぜ今回間違えたのか原因を探ってみる
今回、もっとも疑問なのが銃口ホルダーを使用していたにもかかわらず「なぜ79発もの実弾が発砲されていたのか?」という点だと思います。
この原因にはさまざまな物があると思いますが、幸い誰も命を落とさなかったのは不幸中の幸いとでも言いましょうか。
演習の内容によっては2日間不眠不休で戦う想定をした訓練などもあるので、相当な疲労がたまった状態で訓練していたとすれば誤って実弾を使用する可能性も高まるのではないかなと思いますね。
あと、今回実弾誤射をした89式小銃は銃弾が細い5.56ミリ口径の銃であるため、演習場の土手などに着弾したとしても弾の当たったような見た目の変化を見分けるのは難しくもあります。
この89式小銃を始め、近代の対人兵器は殺傷能力を高める物が多く、言い換えれば致死率をさげる(つまり戦闘不能状態にする)ために意図的に威力を下げているものが多いです。
しかし弾の大きさが小さくなったぶん、弾速や貫通力は高まっています。
つまりこの5.56ミリ弾も同じで、たとえ防弾チョッキや鉄のヘルメットを装備していたとしも当たったら簡単に身体を貫通してしまうほどの威力があります。
腕に当たったら貫通して後ろにいる隊員にも被弾しますし、重要な臓器に当たったらそれこそ即死ものでしょう。
現場では敵と自軍で撃ちあうという想定で行われていたといいます。
隊員は89式小銃に実弾が込められていることに気が付かないまま、こんな感じで撃ち合いをしていたということになりますよね。
これ・・・戦争と変わらないですよね。しかも自軍同士の仲間割れみたいな最悪の構図です。
もしもこれが口径の大きな64式小銃であった場合、当たったら即死です。
また、ベテランの隊員であれば実弾と空包の発砲音の違いを聞き分けられるため今回は全ての安全管理が機能不全だったとも言うべきでしょう。
が、弾薬は無造作に扱われるものではなく、弾薬庫から持ち出す時点で数量や見た目などを再三にわたりチェックするので間違えることはまずありえません。
装填するときにも隊員は見た目をチェックしているはずですし、それ以前に弾薬をもらう時に弾薬を渡す側ともらう側でチェックをするはずにもかかわらず全員が見落とす。
・・・なんとも不可解な現象です。
まとめ
今回の実弾誤射事件は謎が謎を呼ぶ結果となり、原因はいまだ分からずじまい。
人に当たらなくて本当に良かったと思いますが、運が悪ければ訓練で命を落としている隊員がいたという事になります。
知らず知らずの間に、戦争にも参加していないのに一瞬で命を奪われる不甲斐なさといったら無いですよね。しかも撃った側の隊員にも過失が生じます。
間違っていることを正しいと勘違いしてやった挙句、自分の人生を棒に振りたくないものです。
そして周りに扇動されず危ない・おかしいと思ったら「これおかしくないですか?」と疑問に思う姿勢は自衛隊でない職業でも一緒。
・サービス残業や休日出勤は当たり前。
・周りに合わせて夜遅くまで残業するのは当たり前。
・会社のためにプライベートを犠牲にするのは当たり前。
今回の件をきっかけに、自分自身が組織から間違った価値観を植え付けられていないか振り返るべきですね。
自分の身は自分で守るべきですし、自分の行動基準を組織ありきで決めてしまうべきではありません。
自分の人生は自分でコントロールできるものであるべきですから。
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